正誤表『大学受験 日本史 形式別演習ドリル』 - 2024.04.03
“円熟脳”のすすめ
脳を活性化させて健康で長生き
はじめに
「快感」とともに「円熟」もある
年をとれば人間の肉体は衰えます。どんなにトレーニングしても、年をとればスポーツの記録は落ちてきますし、視力や聴力、あるいは生殖力といった能力も低下します。肉体の衰えが進めば、さまざまな障害も発生し、それまで一人でできたことでも、身体の自由がきかなくなって人の助けが必要なことも多くなります。そして、最後は一人で死んでいきます。
ただし、これはあくまでも老いるということを、生物として、動物としてだけ見た場合の話です。しかし、ヒトはただの動物ではありません。発達した脳を持ち、その脳の働きによって、五感を通じて、考え、快楽を追求する「幻想の動物」なのです。食物を摂取し排泄して自己保存をはかり、生殖をして子孫を残すことに生きている動物といっしょに論じることはできないのです。
ヒトはいわば「脳の動物」です。ヒトが直立歩行をはじめてから四百万年。直立歩行によって、手が自由になって、道具を使えるようになりました。そして、長い年月をすごすうちに脳が巨大化し、動物脳をつつみこむようにして、新しい学習する脳の層ができました。この新しい脳は、動物にはない新しい快感を生み出したのです。
動物もヒトも快感を求めて生きている点では同じですが、動物は食欲、性欲、そして群れる、という本能が満たされれば、それで満足します。ところがヒトの場合は、学習することによって、本能以外にもさまざまな文化的なものを充足することで、より深く、より質の高い「快感」が得られるようになったのです。
それは、快楽、あるいは「けらく」と呼ぶにふさわしいものです。こういった深い快感のあるなしが、動物とヒトとの大きな相違点といえます。
この快感は記憶としてインプットされ、それをもとにさらに新たなる快感を求めるという作業がヒトの脳を進化させ、文化・文明をつくり出しました。単純で本能的な快感から、複雑で文化的な快感への充足へと進んでいったのです。つまり、快感から快楽へと高まっていったわけです。文明の主要な目的は、その快楽を実現することにあります。そしてそのためにこそ、ヒトは脳を進化させ、今日に至ったのです。
このようにヒトは、脳によって生きている「快楽の動物」であると認識すれば、老いる、つまり年をとることの意味はまったく違ってきます。ヒトにとって、年をとるということは、たんなる生物的な老化ということでなく、脳を活き活きと活動させ、五感を通じて快感を最大限に享受し、脳を満足させながら生きることを意味しているのです。それを私は「円熟」と称することにしました。
少なくとも、私の考える「円熟社会」は、「ボケ老人」「寝たきり老人」だらけの活気のない寂しい、暗い社会というイメージではありません。むしろ、円熟して、うるおいに満ちた豊かな社会というイメージです。年をとることおおいにけっこう、みんな早く円熟して、楽しく、豊かに生きようじゃありませんか。
大島 清
◆著者略歴
大島 清 (おおしま・きよし)
1927年生まれ。1957年東京大学医学部を卒業、同大学産婦人科に入局。ワシントン大学助教授、京都大学霊長類研究所教授、京都大学名誉教授、愛知工業大学教授を歴任する。サルの生殖生理、脳とホルモンから胎児の生理まで、幅広い研究領域を持つ。とくに大脳生理の研究に関しては、理論だけでなく、日常生活の中で“脳を鍛える”ことを自ら実践している。(2023年没)
著書に『胎児教育』『スーパー独学術』『頭の健康法』『快楽進化論』『人生は定年からが面白い』など多数がある。
編集協力:生活情報研究会
編集者、ライタ-、ビジネスマン、学生などのメンバ-で構成。
医療、生活、教育、趣味など、現代社会の中で求められる情報を収集し提供している。
「快感」とともに「円熟」もある
第一章 円熟のすすめ
(1) 円熟の楽しみ
「円熟」とは、ほんとうの楽しさを感じられること
脳には快感を味わう仕組みが整っている
いくつになっても快感を味わい、円熟脳をつくる
(2) 脳は鍛えられることで円熟する
脳が快感を覚えるとき
人間だけに許された、複雑で深い快感
人間ほど快感を表現できる動物はない
脳は、年をとってからでも鍛えられる
脳には可塑性があるから、素晴らしい可能性もある
(3) 五感でフルに快感を味わい 動物脳を鍛える
脳を鍛えるとは、動物脳を鍛えること
動物脳を満足させないと心が荒れてくる
動物脳の危機は、人類の危機
視覚だけが肥大化した現代人
皮膚感覚を刺激すれば、植物人間の脳も回復する
ほんとうの快感は、身体性をともなう
どんな運動が脳にいいのか
(4) 自然とのふれあいが、円熟への早道
都会生活から奪われた「遠いまなざし」
ほんとうの円熟社会とは
第二章 一病息災の健康学
(5) 健康幻想という怪物に振りまわされていませんか
健康幻想に踊らされている日本人
二元論では何もわからない
人間は病気を持っているのがあたりまえ
人間はもともとボーダーレスな存在
病気と共生して、健康に生きる
(6) 検査数値で健康度がわかるのか
正常値なら健康なのか
病院が病気をつくる?!
(7) 心と体の不思議な関係
忠臣蔵のほんとうの原因
ホリスティック医学
薬に頼らず免疫力を高める
第三章 円熟への生き方
(8) 足るを知る
失ったものを嘆くより、今あるものを生かす
失うことで得られるものもある
「足るを知る」は、積極的な生き方
(9) 円熟へのキーワードは「心・体・食」
心にシワをよせない
円熟のための計画の立て方
よく歩いてよく手を使う人は、頭も体も若々しさが保たれる
手を使って、創造の喜びを味わう
脳を活性化させる「三カクのすすめ」
(10) 「食脳学」のすすめ
食べることは五感を鍛えること
噛めば噛むほど、脳は活性化される
よく噛むことは、円熟を味わうこと
ひと口三〇回噛むのが理想
だれと、何を食べるか
(11) よい睡眠は、健康な脳をつくる
いい眠りは脳の円熟のためには欠かせない
いい眠りをとっている人は元気で長生き
自分の体のリズムに合わせると、いい眠りが得られやすい
(12) 遊びをせむとや生まれけむ
脳の発達には遊びがだいじ
好奇心は、円熟へのエネルギー源
人生とは、年の数ではなく思い出の数
(13) いつも心にときめきを
異性への心のときめきが円熟をもたらす
五感をイキイキつかっている人ほど、心も若い
友人の多い人は、長生きする
円熟のおしゃれ学
第四章 脳を円熟化するための実践法
“ほめる” “笑う”は、脳の精力剤
俳句をつくることが頭の活性化につながる
性的関心が衰えると、大脳の活動も衰える
あくびをするだけで、脳の疲労がとれる
筋肉を使うことは、脳の活性化を促す
ときには裸足で歩くことが脳にいい刺激となる
同じ時間眠っても、頭がスッキリする眠り方がある
一五分の仮眠でも、リズムに合えば頭が生き生きとする
脳の短期集中は、生理的に一時間半が限界
毎日排便することで、脳への栄養補給をよくする
体験① 四季ごとの、“頭の衣がえ”をする
体験② 耳や鼻をとぎすませて、海の音、花の香りを体験する
体験③ サッカ—場、野球場、映画館などで、生の感動を体験する
体験④ すすんで新しいこと、苦手なことにチヤレンジする
体験⑤ “食べる”ことより“つくる”ことを体験する
体験⑥ 地域社会を “知域社会”にするチャンスを体験する
体験⑦ 每日、一つでも二つでも楽しいことをさがす
体験⑧ どうせなら、寝るまえの考えごとは朝にまわす
体験⑨ 毎日、毎週、“近い記憶”を思い出す
体験⑩ 昔読んだ本でできる“イメ ージ読書術”をする
※本書は『円熟開花』(一九九六年ごま書房刊)に加筆・編集したものです。