少林寺拳法有段者の小説家が「女性向け護身術」に噛みつく

　女性ごしん法とは、私が命名した護身の技術の集大成です。特に女性向けの防御反撃ワザが多いのと、体だけではなく、心も守ることも大事だということで、護身術ではなく、ごしん法としました。
　私自身は海外で何度も危ない目にあって、 帰国後になにかよい護身術はないかと探しました。(中略)

　ある日少林寺拳法の指導者に言われた言葉にショックを受けました。「少林寺拳法は、相手に勝たなくてもよい。負けなければよいのである」
　これこそ平和的な私に最適な護身術だと修行を始め、最終的には六段准範士まで取得しました。だから少林寺拳法の技術がストレートにではなく、エッセンスとして色濃く女性ごしん法に反映されているのは間違いありません。その他にも聞きかじったり、見たりしただけの他武道の技も取り入れています。 

　現代女性はやることがいっぱいあって(多分)、5年も10年もひとつの武道を修行するのはむずかしいでしょう。それなのに暴漢やこまったちゃんは、時も場所も選ぱずにアタックをかけてくるとなれば、そんな理不尽な迫り方に特化した、専門的で系統立った技術の集大成を習うしかありません。
　それこそが「川合流・女性ごしん法」の目指すところであって、以下で展開するテキストからの抜粋を独学して、あらゆる状況での防御反擎ワザを習得して下さい。
　なお、女性にもできる力のあまりいらない技術がメインであって、男性や子どもは対象に入っていません。男性は力が強くて、ここでは敵役でしかないし、子どもは基本的に時間があるので、ちゃんとした従来型の武道を学ぶ方がよいからです。

 ♦著者略歴

川合宣雄(かわいのりお)

1947年、東京都立川市に生まれる。
海外を放浪のように旅すること数度。いくつかのペンネームで、さまざまなジャンルの官能小説を書くが、真面目な作品もないわけではない。
著書に、「中国超級旅游術」　「モンゴル悠游旅行術」　「中南米ひとり旅」　「各駅停車中央線の旅」など。

前書き

　世の中には、いわゆるネットでの情報があふれかえっています。それらは悪意に満ちたものから、善意がこぼれるようなものまで、まさに玉石混交、有象無象、我田引水、奇奇怪怪なワールドが展開されています。
　それは「女性向け護身術講座」などと称されるホームページなどにも共通して見られるあぶなっかしさであって、よっぽどしっかり取捨選択しないと、生兵法は大怪我のもと、なんてことにもなりかねません。
　それならば現代に生きる女性は、いったいどうしたらよいのでしようか。自分の隣に立っている見知らぬ男が、なにを考えているのかがわからない、というのは昔からですが、今は以前とは明らかに違って、その行為の異常さが激しすぎます。
　一見まともに見える若者が、いきなり路上で刃物を取り出してめったやたらに通りがかりの人間に切りつけるとか、電車内に放火して刀を振り回すとか、そうかと思うと幼児を抱いた母親に笑顔で近づき、あやす振りをして赤ちゃんの足の骨を折るなんて人面鬼までいます。
　もうこうなると、危機回避術の極めて初歩の段階を応用して他人を遠ざけるしかないのですが、やはり最終的に接近あるいは接触は避けられない事態となった場合の護身格闘技術が 必要になるのです。
　この際にやっかいなのは、相手がどんな意図を持っていて、その目的を達成するためにどんなアタックを仕掛けてくるのか分からないということと、そんな事態が突発的に発生するケースが多いことです。
　だから常に周囲に気を配り、この状況であればこんな突発事態が起こりうるだろうと予測し、さらにはその予測を越えた相手の対応をも考慮して、複数の対処法を考えながら外歩きをしなければならないのです。
　そんな緊急事態に自分が襲われるわけがない、と考えるのが普通の人ですが、それこそが正常バイアスの罠にどっぷりと浸かってしまっている証拠です。そんな風にのんきに構えていて、今まで一度もアクシデントに遭遇していない方が奇跡なのですから、ここで本気を出して心を入れ替えて下さい。
　そうなると、いかにも単純に攻められて、簡単にワザを返すのがどれほど無意味なのかが分かりますよね。手首を握られて、相手の側方に少いて回ったり、时をぶつけるようにしてこねくり抜くなんてまったく無理なのですが、その理由は相手の意図を考慮していないからです。
　例えば相手が自分の右手首外側を左手で順に握ってきたケースを参考にすると、実にあり 得ない状況下で護身術と称される対応策を教える人が多いのです。
　相手の横に回って同じ方向を向き、肘を重ねる風にしてこねくり抜くか、それとも対面したままで指先を上に向けて抜く、と教わるケースがほとんどですが、その間、悪漢役の人が何もせずに突っ立ったままでいるのが解せません。
　こんな風に手首を取られた場合、とても危険だというのは、相手が有利で盤石な体勢にあるからです。それなのに護身の技術だと称して技を教える人は、まったく相手の動きを想定もしていないのです。だからそんなワザをいくつマスターしたところで、実際にはまったく役立たないのです。
　ちょっとでも急所を知っている人なら、手首外側に人差し指の付け根を当てた途端に相手を激痛で倒すことが可能ですし、浅く握って手首を曲げて下から支えれば、相手はつま先立ちになってどうにでも料理ができるのです。
　それは少林寺拳法の技術にありますし、柔道ワザであれば背負い投げなどの応用ワザは少なくないでしよう。
　投げ技系でなくとも、攻撃側の右手がフリ－なのですから、さまざまなパンチやいたずら手、または対象の反撃に対応しての追加補助的なさばき手を繰り出すことができるだろうことは、格闘技を体験したことのない人でも容易に想像がつくでしきょう。
　右手が利き手の人の方が圧倒的に多いのですから、右手を制されたら不利だという状況をわざと作り出しているのがこのつかみ手であって、冗談ではなく危険な体勢だと認識しなければなりません。
　それでは明らかに攻め手側よりも非力な女性が、右手首外側から相手左手で順に握られた時、相手の言いなりになるしかないのでしようか。答えはやっぱりつかまれた手を振りほどくとなるのですが、その前提条件に誰ひとりとして触れていないからやきもきしているのです。
　つかまれた女性が防御態勢も取らず、相手のつかむ力を減衰させもせずに抜き技に入っていくことを論難しているのであって、百パーセントの力で握られている手をそんな生ぬるいやり方では絶対に振りほどけはしないと保証します。
　本当はこの項目は、もっと技術解説が進んだ後の方で披露しようと思ったのですが、それならおまえはどうするんだ、と突っ込んでいる人が多いようなので、本当に女性が護身に使える技術はこういったものだと伝えるために書き記してみます。
　話はいささか逆説的になりますが、襲ってきた相手の力が百パーセントの効果を発揮するための4条件があります。それらの条件のうち、ひとつでもふたつでも崩していくと伝わる力が減っていくのであって、それらの対処があって初めて抜き技が成功するのです。

1　手首が生きている･･･肘から手首にかけてのラインが直線的な状態で、パワーがストレー卜につかみ手に伝わってくる。押し引きのときは真っ直ぐだが、仕掛けによっては内手首が外に折れ曲がることもあり、危険度に大差はない。

2　手のひらが強く圧着･･･次の指の向き合い方と強く連携しているのだが、指の腹から手のひらまでの全部がこちらの肌に隙間なく圧着している状況。衣類の上からでも同様で、つかみ手のパワーを伝達する要素としては最大の条件ともいえるもの。

3　4指と親指が向き合う･･･アタックなり次の動作なりによって多少のばらつきはあるにしても、親指と他の四本指のどれかは向かい合わせの状況になっている。人差し指が参加していないこともあるが、いずれにしても指関節が深く曲がって指先が食い込んでいるから、ここからも強力なつかみパワーが生じている。

4　手首骨格の山部に指関節が引っかかる･･･これは手首の細い部分を握られたときに限定される条件だが、平べったい手首骨格のうち、薄くなった部分に指関節がしっかりとまとわりついた状況をいう。扁平な骨に手のひらが密着し、すべての指関節が薄い骨部分に食い込んでいるから、このままでは動きがとれない。

　以上がつかみパワーが伝わる4条件ですが、それでは自分の手首を反対側の手で握って、さっそく実体験を始めて下さい。握られるのがどの部位でも、握っている側がこの4条件を 満たしているのが分かるでしょう。そして自分で強く握りしめた3倍の力を想像してみれば、 軽い気持ちでは振りほどけないのを実感するでしょう。
　現実にそんな力で手首などをつかまれ、振り回されたり押し倒されたりするのですから、生半可な誰身術など役立つはずもなく、だから私が警鐘を鳴らしているのです。
　そもそもこの本は、今後刊行予定の「〇〇小説家が△△に嚙みつく」シリーズの一冊目にあたり、さっそくいろんなジャンルの女性向け護身術と称される講座にかみつくことにします。
　え、つかみ4条件を崩す方法ですって、それは本文の中で丁寧に解説しますから、とりあえずどんな風に嚙みついているか読み進んでみて下さいな。

2023年3月
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　川合宣雄

前書き

第一章　ネット情報を鵜吞みにするとあぶないよ
－いくつか県警のHPを拝見しました－

兵庫県警チャンネル　女性のための護身術
富山県警 子ども・女性安全対策室
島根県警身　身につけよう！まさかの時の護身術
警備会社のALSOK

第二章　本に書かれたことも鵜呑みにしない方がいいかも
－何冊かの本を読みくらべました—

『とっさのときにすぐ護れる　女性のための護身術』　伊藤祐靖／講談社
『元特殊部隊隊員が教える危機管理と護身術入門』　二見　龍／誠文堂新光社
『強い女は美しい　今日から使える護身術』　森山奈央美／新水社
『実践護身術入門　こんなピンチにこんな技』　塩田泰久／竹内書店新社
『マッハ流痴漢ゲキタイ法』　マッハ文朱／主婦の友社

第三章　こまったちゃんは困りもの
－セクハラ男から暴漢まで－

自尊心を傷つけることなく、イタズラをはね返すには
横から背後に回した手で肩を抱かれるケ—ス
セクハラオヤジが右横にいて、左手であなたの肩を抱いてきました
痴漢程度のイタズラでは満足できない暴漢が
つかまれたままで自分も体勢を崩したら

第四章　川合流・女性ごしん法を独習しましよう

初級項目　手足での反擊技術
掌底でのあご突き／表こぶしと裏こぶし／ヒジ鉄／膝がしら／足(脚)／その他の部分／やめ手構えからのさばきといなし／片手首順つかみに尻もち倒し

中級項目　守り手の形
やめ手／平手／ビンタ手／チョップ手／すぼめ手／手鏡／ごめん手／おくれ手／アイ—ン手(腰、胸、のど)／カモン手／キラキラ星手(内、外)／脱力ゆる手／小指巻き込み／合掌／片手拝み／頭抱え手

中級項目　抜きの形
クロ－ル／平泳ぎ／背泳ぎ／抜き手／犬かき／バタフライ／双び込み／ワイパー(内、外)／前手外手首順つかみ・ビンタ手守りから平泳ぎ抜き

上級項目　固め技
Iロック／Vロック／外Vロック／Uロック／Sロック／横Sロック／Lロック／Tロック／Nロック

上級項目　はさみ手
二指はさみ／四指はさみ／五指はさみ

上級項目　投げ技
前落とし投げ／横崩し投げ／後ろ崩し投げ／前手外手首順つかみ押しつけ

アタック別項目 抜き固め・投げ技展開
(これ以降は、初・中・上級をアタック別にまとめている)

上級応用技
前からの腕ごと抱きしめ・頭突きからの応用変化ワザ／後ろから腕ごと抱きしめ・飛び込み尻鉄砲／前からの胴締め.両耳二指はさみひねり投げ…他

あとがき