今、なぜドラッカ-と渋沢なのか?

渋沢から経営思想を学んだドラッカ-

ドラッカーや渋沢が企業や組織に求めたものは、 モラルや倫理覚に裏打ちされた人間主体の人材を育成することであった。

著者 御手洗 昭治
ジャンル ビジネス
シリーズ 仕事術
出版年月日 2021/03/13
ISBN 9784341087838
判型・ページ数 4-6・248ページ
定価 本体1,400円+税

 二一世紀の令和の時代に入った現在、経済道徳や企業倫理が混乱し問われている。現代のビジネス経営者の中には、儲けさえすればよいという私利私欲主義で非人間的なタイプの人が増えたリ、企業組織をめぐって如何わしい事件が周辺に発生していることである。

それゆえ、企業倫理について再度、見つめ直す必要がある。

ドラッカーや渋沢が企業や組織に求めたものは、
モラルや倫理覚に裏打ちされた人間主体の人材を育成することであった。

 

はじめに

今、なぜドラッカーと渋沢なのか

「経営の神様」、「経営学の父」、「マネジメントの父」、「コンサルタントの神様」と称されたピーター・ドラツカー。
「日本資本主義の父」、「実業の父」、「近代日本の民間リーダー」、「日本初のサラリーマン社長」 として知られる渋沢栄一。
 二人とも多岐にわたるユニークな経歴の持ち主であった。また、人生や生き様、経営思想などにおいて二人は似通った点が多い。
 ドラッカーは渋沢栄一の本質について、他の渋沢研究家や著者とは異なる視点から評価して いる。
 ドラッカー曰く、「経営の社会責任について論じた歴史的人物で、あの偉大な明治を築いた大人物と言えば、渋沢栄一である。彼の右に出る者はいない」また「世界で最初に経営の本質を見抜いた人物と言えば、渋沢栄一である」(Management)
 ニー世紀の令和の時代に入った現在、経済道徳や企業倫理が混乱し問われている。現代のビジネス経営者の中には、儲けさえすればよいという私利私欲主義で非人間的なタィプの人が増えたり、企業組織をめぐって如何わしい事件が周辺に発生していることである。
 それゆえ、企業倫理について再度、見つめ直す必要がある。ドラッカーと渋沢が企業や組織に求めたものは、モラルや倫理覚に裏打ちされた人間主体の人材を育成することであった。
 二人は、カネだけを重視する資本主義からヒトを育て、大切にする資本主義への転換を提言し続け、また広がる格差と社会の分断にも警告を発した。儲けや利益の追求を原動力とする資本主義、またはその土台となる自由な市場経済の仕組みが、機能しなくなってきている。

 ドラッカーが提唱するイノベーションを起こす力が弱くなっている。大阪大学の安田洋祐准教授によれば、近年、富を蓄積する動きだけが強まっているという。同氏の意見では、蓄積された富は、最終的には消費や投資に回るべきところ、それがあてはまらなくなってきているようだ。
 富裕層がどんどん財産を増やし、大企業が内部保留を蓄積しているのが現状のようだ。それでは、現実の問題として弱者にはお金が回りにくくなっている(「揺らぐ資本主義」読売新聞、 二〇二〇年三月一日)
 ドラッカーや渋沢が説くように、多くの人びとが格差の解消が必要だと考え、企業や社会全体でそれを目指す機運づくりを高めれば、取り組みは進む。
緊の課題は、人間主体の経営学の復活である。ドラッカーの場合には、人間主体の経営学を世界にひろめ、大きな変革の中で物事の本質を見抜き、洞察力と先見性を高め、人間の存在を見極める真摯なスタンスを持ったビジネスパーソンを含む人材を育成することにあった。そして、上記のような問題の解決には、ビジネスパーソン、経営者たち自身が社会のために気運造りを高める必要性と唱えアクションを起こす必要がある。
 渋沢も同様な考えの持ち主であり、フットワークも軽くアクションを起こした人物である。 今、ビジネスパーソンや経営者に求められているのは、二人が指摘する経営の原点に戻りアクションを起こすことで、何か突破口が見えてくる。「言葉よりアクション」という格言もある。

 渋沢の場合には、一個人または組織や会社の利潤追求というビジネスパーソンはなく、また私情にとらわれることなく、国際的な視野から行動し、日本の近代化と日米関係の改善を推し進めたりし、民間の経済外交を押し進めたのである。
 こうした活動を、渋沢個人で行うのではなく、他の民間の人びとのみならず官の人びと共に、 道徳観を備えた次世代の若き人材を国際舞台に送り込もうと試みた。渋沢はしかも、喩えると 不言実行型、いわば「行動の人」(a man of action) であった。
 つまり、渋沢こそが、ドラッカーが求めていた理想のビジネスパーソンと言える。
 ドラッカーは、以下のことを常日頃から説いていた。グローバル化が進み国際間のヒト、モノ、金融や情報の移動が容易になった21世紀こそ、経済活動を担ってきた民間の若手ビジネスパーソンが、国内のみならず異文化ビジネスや民間の外交分野において、大きな役割を果たさ なければならいこと。
 しかも渋沢のように、真摯なスタンスと倫理観を持ったモラリストとして行動せよと主張し続けてきた。

 一国主義では生き残れない現在のグローバル社会。そこで必要なのが、ドラッカーと渋沢が提唱したグローバル視野を培い世界の動きにも目を向け、「公益」を追求する経営センスを養うことである。
 渋沢の後半の人生は、国際的視野にたって日本経済と企業の国際化に時間とエネルギーを費やしている。外国との異文化ビジネスや資本提携や資金投入の仲介をしたり、日本のビジネスや日本企業が海外で評価されるための国際世論形成と人的ネットワークを築いた。
 ピータードラッカーと渋沢栄一の生涯、特にそれを育んだ少年時代と、青年時代は、現代、大変化の「メガ・チェンジ時代」に直面している現代人にとって、一つのインデックスを提供し、かけがえのないバィブルになるであろう。
 それは、グローバル時代の今日、最も求められているビジネスパーソンや若手リーダーのあるべき姿であり、私利私欲ではなく公益を追求した経営モデルである。そして今、世界的に問題となっている資本主義のあり方や市場主義についても、これを制御しコントロールし得るヒントや鍵があると思う。

【中略】

 本書では、ドラッカーの経営思想やマネジメント論は、渋沢の経営思想とマネジメント論に多大な影響を受けているという意外性と新事実にフォーカスを当て探ってみた。
 第2章では、ドラッカーと渋沢との間に共通する項目に着眼点を当て、それらを比較し、加えて二人が目指した「経営思想と倫理」それに「社会公益事業」や「文化活動と支援」」などの活動と足跡をエピソードも混ぜながら探ってみた。
 ここで強調したいことは、これまで、渋沢の経営思想と言えば、多くの書物では「儒教」や 「論語と算盤」といった東洋思想が核になっていると論ぜられている。しかし、彼の思想のバックボーンとなっているのは、ドラッカーも指摘しているが、渋沢が欧州で体験し学んだョーロッパの経営思想と経済・流通システムにあるということだ。
 これまで通説であった儒教や論語だけではない。ヨーロッパへの外遊は実業の世界に対しても、渋沢に新たな思想と視野を開かせたと著者は考える。本書では渋沢の経営思想と企業のエンタープライズ論に影響を与えたヨーロッパ思想についても探ってみた。
 ところで、二〇二〇年二月には、新型中国の武漢を震源地とする新型コロナウィルスが全世界に猛威を振るい、コロナの感染拡大は、特に世界経済の風景を一変させた。
 今後は地球規模で、経済と企業活動を再び成長軌道に乗せるという大作業が待ち受ける。不況から抜け出す原動力は、企業が生き残りかけて生み出す革新的ビジョンとイノベーションである。今回の危機をきっかけに、新たなサービスやオンラインによる、ビジネスや教育、それに新産業も生まれつつある。
 ドラッかーと渋沢が現代に在れば、経済の復興には、民間の創意工夫と責任を用いるべき広範囲な分野が残されているに違いないと思ったに違いない。なぜならば、危機を乗り超えれば、 企業による新たなイノベーションが生まれるからである。
 二人は共に、情熱家であった。現代のような流動的で大変動の時代にこそ、二人が持っていた総合力、洞察力、人間力を吸収し、日本や世界が直面している問題に応用し、生かしていかねればならない。
 二人の生涯、とりわけ、その青年時代は、今のメガ・チェンジ(大転換期)の時代に直面している我々にとって、かけがえのない生き字引となるであろう。それは現代のグローバル時代に求められている経営者、リーダー、またビジネスパ—ソンのあるべき姿であり、かつ私益より公益、「損して得(徳)取れ」の経営コンセプトを求めたビジネスパーソンのモデルでもある。
 今こそ二人の企業経営論と企業家精神論を甦らせ、二人に学び、ポスト・コロナ時代に向けての先見注や視座、それに創造性を求めてもらいたい。

2021年2月吉日

                                          御手洗 昭治


◆著者略歴

御手洗 昭治(みたらい しょうじ)

兵庫県生まれ。札幌大学英語学科・米国ポートランド州立大学卒業。オレゴン州立大学院博士課程修了(Ph.D.)。1981年、ハーバード大学・文部省研究プロジェクト客員研究員(1992〜3年)。ハーバード・ロースクールにて交渉学上級講座&ミディエーション講座修了。

エドウィン・O・ライシャワー博士(元駐日米国大使・ハーバード大学名誉教授)がハル夫人と来道の際、講演の公式通訳として北海道内を随行(1989年9月)。

日本交渉学会元会長、札幌大学名誉教授、北海道日米協会運副会長・専務理事兼任。

●主な近著
『ハーバード流交渉戦略』御手洗昭治編著(東洋経済新報社2013年)、『ケネディの言葉〜名言に学ぶ指導者の条件〜』御手洗昭治編著・小笠原はるの著(東洋経済新報社2014年)、『ライシャワーの名言に学ぶ異文化理解』(御手洗昭治編著・小笠原はるの著(ゆまに書房2016年)、『ハーバード流交渉術〜世界基準の考え方・伝え方〜』御手洗昭治著(総合法令出2017年)、『グローバル異文化交流史』御手洗昭治編著・小笠原はるの著(明石書店2019年)、『ドラッカーとシェイクスピア』御手洗昭治著(産能能率大学出版2019年)、『ドラッカーが、いまビジネスパーソンに伝えたいこと』御手洗昭治著(総合法令出版2020年)、『世界の「常識」図鑑』御手洗昭治編著・小笠原はるの著(総合法令出版2021年)。その他多数。

第1章 ドラッカーの意外性     
〜渋沢から経営思想を学んだドラッカー〜

ドラッカーからみた渋沢像
ドラッカーは世界の中でも渋沢を高評価
ハーバード大名誉教授のライファとライシャワーの渋沢像
ドラッカーはライシャワーの歴史観に影響を受けた
明治時代と日本
企業の社会的責任は、マネジメントにとって第三の役割である
明治という時代の特質
ドラッカーの興味深いコメント
渋沢流儀の人材を重視するという考え方
ドラッカーの指摘
ドラッカーの見る戦後の日本の渋沢イズム経営
渋沢の国益優先論について
渋沢流「話し合いの重要性」について
ドラッカーの語る変革を導いた渋沢の人間像

第2章 ドラッカーと渋沢の共通項を探る

(1)モーツアルトを超えるドラッカーと渋沢
(2)レーダ—で社会を見つめるマクロの眼
(3)師匠との出会いと影響
(4)父親が望んでいた職種以外の道を歩む
(5)二人はアナログ型創設家
(6)ドラッカーと渋沢の経営マネジメント思想
(7)二人の事業家スピリットの柱
(8)二人の捉えた自由な産業社会の形成
(9)企業人の地位向上
(10)物ごとを決める勇気と情熱
(11)組織への取り組みについて
(12)組織は学びの場
(13)組織は人が柱
(14)奉仕精神
(15)教育方針と教育機関への支援
(16)女子教育の向上を目指す
(17)企業の社会的役割の考え
(18)社会的・公共事業への貢献

第3章 経営の神髄は異文化体験がベース

(1)渋沢ら御一行「花の都のパリ」に到着
(2)日米の異文化交流・民間経済外交の架け橋
(3)二人のグローバルな先見力と知恵
(4)異文化交流に欠かせない二人のユーモア・センス

第4章 渋沢が試みた国益と国際関係強化の策    
 — 米国を最重要視した理由 —

渡米を機に国際交流と民間外交のきっかけを作る
アメリカでの渋沢のカルチャーショック
渋沢が渡米後に考えたこと
日米の人脈とパイプ作り
渋沢と青い目の人形ストーリー
欧米以外の渋沢の異文化人脈
日米中の経済協力と発展案
ドラッカーと渋沢の人生のターニングポイント

第5章 ドラッカーと渋沢はポスト・コロナ時代をどう予測するか

コロナの経済危機ショック後の社会の改革
国際社会は仕切り役のいない「Gゼロ」社会に?
1.バイデン政権「米国が世界を導き同盟国と国際協調」
2.バイデン大統領も中国封じで共和党と連携
3.G7かG9・G10経済国・EU先進国の対中国シフトが起きる
4.中国の人口少子化が経済成長を止め民主化が進む
5.アメリカ国内で中国企業の締め出し
6.イギリスの中国離れと日本への経済協力面の接近
7.米国・EUは「中国提案を押し返す」方針に
8.欧州(EU)委員会、中国の投資に規制設ける
9.米・日・豪・印・英・仏・蘭・加・独の連携強化
国内問題の課題と対策
発想を切りかえ世界を救い挑戦したジャパンブランド開発の事例

おわりに

◆ ドラッカーの年譜
◆ 渋沢栄一の年譜
◆ 参考文献/その他資料
◆ ドラッカーの意外性 〜渋沢から経営思想を学んだドラッカー〜 内の英文

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