新刊

覚悟はよいか

この一冊が私の人生を決めた、そう言っても過言ではない。臨済宗円覚寺派 横田南嶺管長も推奨

著者 朝比奈 宗源
ジャンル 教養
シリーズ 教育・倫理
出版年月日 2023/02/27
ISBN 9784341172404
判型・ページ数 4-6・232ページ
定価 本体1,800円+税

  『覚悟はよいか』復刊にあたって

「この一冊が、私の人生を決めた」、そう言っても過言ではない。

 この本が出版された昭和五十三年、私はまだふるさと和歌山県新宮市の中学生であった。十四歳の私は、この本を貪り読んだ。常に座右に置いて何度も何度も繰り返し読んだ。四十年以上経つ今でもその内容を忘れることはない。  私は和歌山県新宮市で鉄工業を営む家に生を享けた。鎌倉にも円覚寺にも全く縁はなかった。ただ満二歳の時に祖父の死に遭って、死とは何か、大きな疑問を抱いた。小学生の頃に同級生の死にも遭って、更に死は、抜き差しならぬ問題となった。死とは何か、死んでどうなるか、解決を求めて書物を読み漁り、お寺や教会に通ったりした。その中で禅寺で坐禅をし、禅の「老師」と呼ばれる方の謦咳に接して、ここに死を解決する道があると直感した。その直感を書物で裏付けしてくれたのが、この『覚悟はよいか』であった。

 『覚悟はよいか』は、当時円覚寺の管長であった朝比奈宗源老師の本である。老師は昭和五十四年に八十八歳でお亡くなりになっているので、お亡くなりになる前年に出されたものだ。
 朝比奈老師は、四歳で母を亡くし、七歳で父を亡くされた。死んだ両親はどこに行ったのかを求めて坐禅に道を志された。坐禅をして、この死の問題をはっきりと解決することができたと書かれている。死についての答えを求めて彷徨していた私にとっては、まさに求める道を得た思いであったのだ。

 本書の魅力はいくつも挙げることができるが、まず第一は幼少の頃に死について大きな疑問をもって十歳で出家して、白隠裨師をお手本に純粋に坐禅の修行に励まれて、この問題を解決されたところにある。朝比奈老師がお若い頃にどのような修行をなさっていたのか細かに書かれているので、今修行をする者にとっては大いに参考になり、励まされる。そして、坐禅修行に打ち込まれた結果、死んでも死なない「仏心」の世界を体得されたのであった。
 第二の魅力は、「信心」の世界について語られているところである。朝比奈老師は三十歳で鎌倉の浄智寺に住されたが、親戚の方の一言で大きな疑問を持たれた。もう年をとって禅の修行もできない者には救いはないのかという問いであった。そこで朝比奈老師は、浄土門の村田静照和上を訪ねられた。
 この村田和上という方は、浄土真宗でも傑出した方であった。禅僧との交流も持たれていた。朝比奈老師は、村田和上との出会いを通して「信心」の世界に目覚められたのだ。後に朝比奈老師は「仏心の信心」という独自の押風を挙揚されるようになったのだ。
 村田和上との問答の数々などは。実にに生き生きとした躍動を感じることができる。実際に修行して「仏心」を悟ることができなくても、そのまま「信心」すればよいと語ってくれているので、大きな安らぎが得られる。
 第三の魅力は本書の後半、国を憂う一念が語られているところである。朝比奈老師は、戦後世界連邦に力を注がれたが、晩年は日本の国のことを大いに憂慮されるようになった。
 円覚寺は、元寇という国難の後に建てられた寺である。元寇の為だけに生まれ、国を守ることに文字通り命を賭けられた北条時宗公が開基である。
 本書の中で、その北条時宗公の眠る円覚寺で、金子堅太郎氏が講演なさったことが書かれている。金子堅太郎氏は、伊藤博文公の元で日露戦争勃発と同時に渡米して、ルーズベルト大統領と和平の交渉をなされていたのであった。
 金子氏の講演は、その間の消息を細かに語っておられる。私は今も、朝比奈老師が、この講演の内容を語った部分をよく引用させてもらっている。
 令和の時代を迎えてなお内憂外患が続いている。日本の国を憂えておられた老師が今の日本をどのようにご覧になるだろうか。
 朝比奈老師がお亡くなりになって三十三回忌の法要が円覚寺で行われた時、私は円覚寺の管長となっていた。この本が出版されて三十二年の後に私は、円覚寺の管長に就任したのだった。十四歳で老師の本を貪るように読んでいた者が、その老師のお寺の管長になり、そして今も老師がお使いになっておられた部屋で寝起きしているのだ。ご縁というのは不思議というほかはない。そのご縁を作ってくれたのが、実にこの『覚悟はよいか』の一冊であった。
 
 そんな本がこの度ごま書房新社から復刻されることになり、慶ばしい限りである。きっと朝比奈老師もお慶びくださるだろう。それと同時に今の日本の様子をご覧になって厳しい叱声を賜るはずであろうと思う。

 ともあれ、私の人生を決めた一書が今再びよみがえることを慶び、広く多くの方にお薦め申し上げる次第である。

令和四年十二月
                             円覚寺 横田南嶺

◆著者略歴 

朝比奈 宗源(あさひな そうげん)

1891年(明治24年)静岡県に生まれる。
鎌倉・円覚寺住職。臨済宗円覚寺管長。水戸黄門、大岡越前など、時代劇の題字を手がけたことでも知られている。
32歳の時に日本大学宗教専門部(現存しない)卒。京都妙心寺、鎌倉円覚寺で修行。
1942年円覚寺貫主。1945年円覚寺派管長。1963年に賀川豊彦、尾崎行雄らと世界連邦運動推進のため世界連邦日本仏教徒協議会(世連仏)を結成、会長となった。
教育においては、横濱専門学校(現神奈川大学)で倫理学講師を担当し、高歯の下駄で鎌倉から通い横濱専門学校の多くの学生から慕われる。1936年2月26日朝、一時間目の授業に教壇に立つや「今朝、軍の暴徒が首相始め高官達を襲って暗殺したらしい。こんなことを許していては日本は滅びてしまう」(二・二六事件)と横濱専門学校の学生に言ったと伝わる。1945年(昭和20年)、広島に原爆が投下されるや、木戸幸一内府や平沼騏一郎らに終戦決断を迫った。生長の家開祖・谷口雅春らに呼びかけて「日本を守る会」を結成

本書は『覚悟はよいか』(昭和53年・PHP研究所刊)を原本として編集、復刻版として出版したものです。

『覚悟はよいか』復刊にあたって

わが心の遍歴

偏屈を俗に臍曲がりという 善知識
死んでも死なぬ 生死事大
暗黙の了解 嘘
突然"柝"が鳴った 修行
自由きわまりない禅世界 仏心の信心
煩悩のまま 仏心の生活

生命の原点

夢幻の命から 困る
はじめて声に出して 母
囚われの心 軽妙心

現代を憂う

そして今 国難
天皇 聖沢無辺
庭に鳴く虫の声 白隠禅師

写真提供/朝比奈惠温住職(鎌倉浄智寺)

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